晴己さんから<縁日>
縁日



 真夏のある夜。薄暗い森の先はにわかに喧騒に満ちていた。どこかから聞こえる祭囃子。人はみな、神社の境内に向かって歩いていく。そんな人ごみの中で、人の流れを逆行する2人がいた。
「待って!待って!お兄ちゃん」
浴衣を着た小さな少女が、一生懸命走っている。
「ついてくるなよ!」
少女の前を走る少年は、振り返ってそう叫んだが、少女は止まらない。
「お兄ちゃん、待って!私も行く〜!!」



 (こんなはずじゃなかったのになぁ)
少年は走りながら思う。今日は友達と縁日で遊ぶ約束なのだ。妹を連れてくる気なんてまったくなかった。妹は両親と縁日に行くはずで。なのに結局自分についてきてしまって…。
「ついてくるなって!」
もう一度後ろに振り向いて、ついてくる妹に叫んだがめげる様子はない。少し何かを考えた少年は仕方なく本気を出して走り出した。



 目の前を走っていた兄の姿が急に遠くなって、少女は焦った。どんどん後姿が遠くなり、人ごみのせいで見えなくなる。焦って自分も追いかけようとしたが、誰かにぶつかってしまった。
「きゃぅっ」
少女は前のめりにこける。こけた拍子に手とひざをすりむいた。気がつけば、慣れない下駄で走っていたせいか足も赤く擦れている。それでも兄を追いかけようと少女は前を見たが、もう完全に兄の姿は見えなくなっていた。
「うっ、ひっく」
こらえきれず、少女の目からは大粒の涙がこぼれだした。ぽろぽろとこぼれる涙をぬぐいもせず、大声で泣き始める。
「おにいちゃ〜ん!」
心配そうに、迷子になったの?とか聞いてくる通りすがりの大人などには目もくれず、泣きながらそこらを歩き回る。すると、不意に声がした。
「何だよ」
少女は驚いて上を見る。するとそこには間違いない、消えたはずの兄がいた。
「お兄ちゃん?」
少女はつぶやく。すると兄は少女の涙を乱暴に自分の服の裾でぬぐって、こう言った。
「仕方ないから、友達に行けなくなったって断ってきたんだよ」
そして少女のすりむいた手や足を見てあぁあ、と呟いた。それから少女の手を引っ張って、神社の境内まで連れて行く。泥のついた傷口を手水場から拝借した水で洗って、少女の頭を優しくなでた。
「いい加減泣きやめよ」
そして、もう一度縁日へと少女を連れ出した。今度はゆっくりと、優しく妹の手を引いて。



 「お兄ちゃん、お兄ちゃん!あれ見て!」
妹が指差した先を見ると、ある夜店があった。『りんご飴』と書かれた看板の下には綺麗な赤いりんご飴。
「食べるのか?」
聞くと、妹はおずおずと頷く。
「買ってやるよ」
そう言って笑うと、妹もつられてにっこりと笑った。
「落とすなよ」
声をかけ、袋に入ったりんご飴を渡す。
「うん!!」
妹にそれを渡すと、やけにその赤が似合って見えて、何故だろうと思う。すると夜店の主人が茶化すように声をかけてきた。
「坊主。可愛い子連れてるな!浴衣がよく似合ってる」
その言葉にあぁ、と思いついた。
(浴衣のせいか)
そう思って今一度妹を見つめると、ふと手の傷が目に入る。
「ちょっと待ってろ!!」
何かを思いついた少年は、妹にそう言って駆け出した。
「あっ!お兄ちゃん!!」
りんご飴を大事に抱えていたから、兄の言葉に反応が遅れた少女は兄が消えた先を寂しげに見やる、しかし兄はすぐ帰ってきて、それから少女の目の前にぐぅを差し出した。
「手出せよ!」
兄の言葉に少女は頷いて右手を差し出す。その手の指に兄はそっと何かをはめた。
「…指輪?」
はめられたのは綺麗な玩具の指輪だった。りんご飴と同じ、綺麗な透き通った赤い石がついている。兄を見やると、照れくさそうに呟いた。
「その色似合うからな。お前に怪我させたし…」
その言葉に少女は嬉しそうに笑う。



わかっている。
子供のお小遣いで、りんご飴と指輪。両方買うのはきついこと。
いつかわかる。
この指輪は偽物で、この石の透き通った赤も作り物だってことも。
それでも、似合うと言ってくれたから。
この色こそが、この指輪こそが、りんご飴の作り出された赤い色が。
二人の大事な宝物…。





ウフーフー。お待たせしました
本サイト内にこっそり存在する裏ルールに
ひっかかった晴己さんからゲトりました☆

「フルーツでほのぼのをぉ」と要請した所こんなものが…
兄妹愛と色彩豊かな情景をトッピングだコラー!!(ぜぇはぁ)
か、可愛い・・・
フルーツはりんごですねv林檎飴のあのツヤは確かに
宝石みたいで、宝物にしたくなりますよね…
忘れかけた子供心を揺さぶられます一作。



帰りも お手々つないで