吹き抜ける風の音 ざわめく木々の声 寒さに凍りついたあたりの空気が 耳のまわりでガラスのような音を立てる 歩いていくその先には、白い砂浜の続く海岸 あたりには深い沈黙の影が降り どこまでも続く波の音と潮の香りがただ この青い世界を支配している 波打ち際には白い泡が 無数の小さな花を形づくる 沖の方には夜空の月と星の影が映り 海全体をやさしく輝かせている 少女はここで立ち止まり 小さな箱を取り出した 美しい装飾を施された小さな箱 壊れかけたオルゴール 少女は底のネジを回すと 海の方へ向けて蓋を開けた それと同時にあたりに流れ出す 暖かくて哀しげなメロディー ふたたび風が吹きはじめ オルゴールの音色をあたりに響きわたらせる 氷のような青い沈黙の世界は 暖かい色へと次第に変わっていく――― それはまだ寒さの残る早春のこと――― . |